2011/11/26  15:30

久保 隆「第23回コスモス忌(佐々木幹郎『秋山清の世界』)・報告」  コスモス忌案内

 2011年11月19日、雨が降る中、秋山清を偲ぶ会でもある「コスモス忌」が行われた。今年の会場は、新たに築地本願寺本堂内講堂である。関東大震災時に避難場所となったという築地本願寺での今年の「コスモス忌」というのも、なにかの機縁というものだろうか。そして佐々木幹郎氏による講演『秋山清の世界』は、3.11東日本大震災(福島原発事故)と関東大震災を指向変容させながら、秋山詩へ論及していく画期的なものだった。しかも、予定の1時間半を大幅に超える2時間にも及ぶ熱い講演であった。
 日本の近現代詩史を望見して、現代詩というものを『赤と黒』(参加同人=岡本潤、萩原恭次郎、壺井繁治、川崎長太郎、後に小野十三郎)の発刊(大正12年)に始まるという提起。さらには関東大震災というものが、若い世代の詩人たちを突き動かす契機となったと捉えていく。大正12(1923)年、秋山清は十九歳、中原中也は十六歳、そして宮沢賢治が二十七歳だったが、ともに、ダダイストを標榜していた辻潤との接点があり、明らかな影響下にあった。

 「詩とは爆弾である! 詩人とは牢獄の固き壁と扉に爆弾を投ずる黒き犯人である!」(「赤と黒」表紙に印刷された萩原恭次郎による宣言)

 「私は『赤と黒』の同人たちが性急すぎて見える否定的発言とともにアナキズムに到達したこと、その詩型と詩意識の変革の活動における芸術革命の自己とのかかわり、あるいは意識的な否定的表現の由って来たる自己への責任と、中浜(哲)、和田(久太郎)らテロリストの文学との共通的な存在理由の中には、もっとも大きく芸術へのふかい関心があったのだと信ずる。後のプロレタリア文学にはエゴの生きる場がない。ニヒリスト、テロリストの芸術観には、自我のもっとも大きな反映がある。あるいはエゴそのものが生きている。」(秋山清『アナキズム文学史』)

 関東大震災という想像を絶する災禍を乗り越えるための様々な動態を、詩表現から捉えなおすことの視線は、3.11以後の現在をも包括しうるものだといっていい。
 
 そして、わが秋山清がやがて到達した詩法とでもいうべきものが「現実をして語らしめる」ということであった。

 「明日の希望が目に見えぬとき詩人の自我は、自己に恃むことと現実を見ることの、二者合してのリアリズムを内にひそめたる手段手法しかなかったのである。呼びかけ叫びかけるのがプロレタリア詩とすれば、我が目に見えたことの証拠を文字に綴る態の、物いわぬ詩法がわれわれに残されたただ一つのものであった。」(『同前』)

 佐々木氏は、詩集『白い花(一九三五〜一九四五)』(1966年刊)所収の「雨」以降、「早春」の連作(七年間、毎年一篇、東中野から下落合上高田の墓地裏までの風景を描くという同一主題でつくられた)に着目していく。「現実をして語らしめる」という詩法の、これらは「達成」ということになる。

 雨

雨の夜の一時すぎ。
合羽を着て靴おとしずかに行く男がいる。
極めてゆっくりとあゆむ。
用事のある人や
家に眠りにかえる者の足どりではない。
それは無味退くつをおもわせる。
春の雨は傘のうえに音もたてず。
濡れた街上には
彼とぼくと二人きり。
この道は坦々と坂をくだり
両側は煙草屋も米屋も喫茶店もパン屋も靴屋も八百屋もねしずまっている。
ぼくはしだいに彼に追いついた。
近づくと合羽の下から剣の先が出ている。
それが雨にぬれて
深靴にさわってときどき光る。
ぼくは彼に追いつき追越して先になった。
彼は頭巾を目深にして顔をかくしている。
しばらく先に歩いてふりかえると
横町に曲がっていった。
         (昭和十年)

………………………………………………………………………………………………

 ほとんど、恣意的でメモ的報告である。佐々木氏が作成した講演レジュメを参照しながら、わたしの感想を記したに過ぎないことを断わっておく。なお、七十年代から八十年代にかけて、ドイツ語講座から始まって、やがて、文学・思想講座も開設していった高田馬場「寺小屋教室」というのがあった。そこで、佐々木氏は「現代詩研究」講座を受け持っていて、昭和57(1982)年2月24日の夜、秋山清(当時77歳)が、ゲスト講演をしたという。そこでの貴重な講演録(一部)を音声とともに披瀝されたことを報告しておく。編集委員の一人として、しかも、「寺小屋教室」と親近な関係のあったわたしですら、そのことを知らないでいた。『著作集・別巻』の年譜等にも、当然、記載されていない。いずれ、当ブログ内か、紙媒体で再現するつもりである。

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