2009/11/12

面談―その参  

「こんなの、適当にしとけばいいのに…」
一瞬にして宇佐見は机一つ分の距離を詰めた。前のめりになって、僕の顔の寸でのところまで自分の顔を寄せた。ブラウスの胸元が覗きやすいくらいに。  
こいつも、まあまあ胸はあるな。
それはともかく、明らかに怒っている。胸を覗き見したからじゃない。それなら、また頭をしばかれている。いつものように冷ややかに見下ろすような視線ではなく、歯を食いしばるように感情を抑えて凝視している。
「バカか、お主は。私は目の前にいる人間のことが心配なのだよ。自分の見栄や周りからの評価なんて、そんなくだらないものなど気にするだけ無駄だ。そんなもの気にしてどうする?次の瞬間には変わってるような、そんな頼りないものだぞ。私はそんなものが欲しいと願ったことは、一度たりともない」
自分が見誤られたことを怒っているのではなかった。
自分を見誤った僕を責めているのでもなかった。
「何がお主にそうさせる?正直、お主の進路のことなど、どうでもいいのだよ」
 それは知ってはいる。
「お主は何をしているときが楽しい?目を逸らしたくなるような辛いことを最近体験したりしたか?お主が何を考えているのか、どんな思いで毎日を送っているのか、それを知りたいのだ。それが一番大事なことだろう。こだわりを持たぬことも良い。答えを急がず、広い視野を持つことも良い。だが、お主は逃げているだけだろう?何から逃げている?何を恐れている?何でこんなことを毎日のように続けているのだ?」
よほど尻に肉がついているのか、重たそうに腰を下ろす。外見からは、そうは見えないんだが。詰め寄ったときの表情とはうって変わって、虚ろな表情を見せ、額に手を当てる。そんな姿を見ていると、少しくらい罪悪感を感じざる得ない。
何度も言うけれど、知っていた。今日、宇佐見が僕に何を聞きたかったか。何を話したかったか。知っていたけれど、そんなの関係ない。何度も言うが、誰が僕に何を求めようが、拒みはしないけれど受け入れもしない。それが、僕のスタイルだ。そのつもりだった。
「先生さ、熱すぎでしょ」
 怒っているような、責めているような、寂しそうな、そんないくつもの感情が混ざり合った顔をしている。
「普段なら、自己責任だから好きにしたら良いと言うはず、でしょ?」
「普段ならな」
「今日は違うんですか?」
「いつか、誰かが諭すような声をかけるべきならば、今私がかけても良いのだろう」
「これも自分が選んだことだから。それなりに責任は負いますよ」
責任?と宇佐見は表情を曇らせる。
「お主が何に対して、どう責任を負うというのだ?」
 僕は努力することを諦め、現実と自分を照らし合わせて妥協することを選んだ。これが僕の選んだことだ。
「何か勘違いしておるのではないか?自分の選んだこと、だと?お主は何も選んではいないのに、か。そういうのは、選んだとは言わぬのだ」
 じゃあ、何と言うのだ。
「自暴自棄」
 へ?僕が自分を見失っていると?僕は至って冷静。過去の経験があるから、きちんと学習している。
「もっともらしく聞こえるが、お主は自分でも気付かぬうちに自分と向き合うことと、自分への言い訳をすり替えてしまっている。十八年しか生きていないお主にも、それなりにいろいろとあるのだろうよ。だが、その年で荒むには早すぎる。どんな理由であろうが、お主はこれから先も生きていかなくてはならないのだ。生きるのはお主自身だ。この世界に息づくのは、その体、その心なのだぞ。それを実感して欲しい」
 まったく見透かしたようなことを言ってくれる。あんたのように、みんなが熱く生きているわけじゃないんだ、と宇佐見を見返す。一、二、三…話そうとしていた言葉を思いとどめる。
 物事には、それなりの理由があるものじゃ。
 両親が死んだとき、塞ぎ込んだ僕にジジイが言っていた。それなりの意味があると。今わかることか、長い時間かけてもわからないかもしれないけれど。
 とするならば、今日、宇佐見がこれだけ喰らいついてきたことにもきちんと理由がある。それを知ってしまうと、何もいう気になれなかった。ここで僕から何も言うべきじゃないような気がした。
 話し終えた宇佐見は頬杖をついて舌打ちした。ここまで感情的になることは、想定外だったってことだろう。話したいことを話はしたが、後味は悪い。何かいいように乗せられた、そう感じている。少しやり過ぎたか。
「進路のこと、できるだけ早く答えを出しますよ」
「それだけか?」
 僕は一つ咳払いをする。
「僕が自分と向き合ってないように見えるのならば、そうなんだろ。何かから逃げているように見えるなら、僕は何かから逃げているのかもしれない」
 そう言ったところで、言葉を止めて目を押さえる。宇佐見は机一つ挟んだところから、変わらずじっと僕を眺めている。
 泣いているわけじゃない。目が疲れただけ。表面が乾いてしまっている。眼球の中の筋肉も消耗しているのか重たげに感じる。できるだけ、宇佐見と目を合わせないようにしていたのだけど。
 いい目薬あるけど、どう?
 忍足とのくだらない会話を思い出した。
 何の脈略もない話題だったから気にしなかったけれど、今思うと少しタイミングが良すぎるような台詞。まさか、知っていたんじゃないだろうな。僕が目を合わせると、頭の中で考えていることや、心の中で感じていることがわかってしまうことを。これまで誰にも話したことはないし、知っているのは一緒に暮らしているジジイと婆さまくらいなものだ。あいつが僕と同じ能力を持っていれば話は別だけれど。まさか…考えすぎか。
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2009/10/11

ひそか―面談その弐―  

「まあ、いい。話を戻すぞ。一年の大半が過ぎたこの時期に、こんなことを聞くのは私としても不本意なのだが…」
何です…。
「お主、優待生(特待生)だったな?」
 何だか、えらく不満そうな言い方だな。
「優待生たるには、優等生たる理由を要する。成績もしくは運動が優秀であること。その代わりに、学校は金銭面の負担を軽減を図る。お主を見る限り、どう考えてもスポーツに因るものではないな。だとすれば、学業に因るものか?」
僕に答えを求めるというよりは、自分の思考を口に出して確認しているといった感じだった。そんなことは手持ちの資料に書かれているだろう。そんなことを確かめるくらいなら、それって僕はこの場にいなくてもいいんじゃないのか?
自慢になってしまうが、確かに入学当時はそれなりの学力を有していた。そのおかげで学費の多くは減額されたりと優遇された。優遇の条件は二つ。入学時に特待扱いされるべきものを持ち合わせていること。もう一つは、三年間持続すること。最初は成績を落とすまいと気合いを入れて頑張っていたのだが、次第に下降線をたどって行った。今じゃ、優待生という枠のぎりぎりってところにいる。きっと打ち切られないのは、あと数ヶ月で高校生活が終わるからに違いなかった。
「特に、この一年の落ちようは目を瞠るものがあるな。何だ、これは?」
何だこれは、とは何だ。これが現実だ。そう、現実はそんなに甘くない。そして、それに気付けなかった僕が愚かだった。それだけのことだった。それに気付いた頃には、もう遅かった。張り詰めた糸が切れてしまった感じだ。最初は期待に応えるため、経済的な負担を軽くするため頑張ってはみたが、二年の半ば頃には燃え尽きてしまった。最初から気付くべきだった。誰も無理をしてまで僕に頑張ることは求めてはいなかった。僕に期待していたのは、僕自身だった。自分で自分を追い込んでいた。「分相応」という言葉があるように、「分不相応」という言葉がある。僕にはどちらの意味もわかっていなかった。ただ、それだけのことだった。
一気に気が抜けた。体から力が抜けて、魂まで抜け落ちてしまった感じだった。一度そんなことになると、簡単に元に戻れなかった。けれども、思い出してみれば、元来僕はそんなに頑張って生きていくタイプの人間じゃあない。面倒臭がりのおおざっぱな人間。それを忘れていた。それからは自然体で生きている。なーなーの成り行き任せ、頑張ることは面倒くさい。周りは気にせず、常にマイペース。
こうなるんだったら、最初から無理をするんじゃなかった。
当然の如く、あまりの変わりように当時のクラスメイトや担任は驚きを隠せなかったが、今じゃ誰も驚きはしない。僕にしてみれば、二年とはよくもった方だろう。
「まあ、無理しても続かないってことッスよ」
すかして答えると、宇佐見は見透かしたようなことを言う。
「もしかして、お金のことを気にして進学を渋っておるのではないのか?失礼だが、ご両親は何年も前に亡くなられ、ご祖父母と暮らしているそうではないか。お会いしたことはあるが、孫を学校に行かせるには少しお年を召されておられた覚えがある。ただ、一年に比べ成績が落ちたとはいえ、学力自体は十分進学を考えられると思うが」
「そんなのは関係ない。別に、そんな理由で進路をうやむやにしてるわけではないし」
本当はそれも理由の一つだ。
「そんなのは…。そんな理由で…というのはどんなのと比べているのだ。その口ぶりだと、別に理由があるのだろう?」
目ざといやつは面倒だ。
「理由ねぇ…。逆に聞きたいんだけど、学力があっても進学しないってのもアリでしょう?」
「…」
「何も目的がないのに進学するのはナシ。となると、確たる理由もなくそこにいる意味も金もナシ。だとすれば、進学するって選択肢はナシなんスよ」
「じゃあ、働くのか?」
宇佐見に手のひらを翳して言葉を遮る。
「ちょっと待った。そうじゃないんだって」
「だから、先程から聞いておるのではないか。お主が何を考えてるか、さっぱりわからん。私はずっとお主が何を考えているのか、何を思っているのか、それを知りたいと言うておろうが…」
わからない…。何でそんなに他人事に熱心なんだろ。今までの宇佐見からすれば、もっとサバサバしていたはずだ。まさか、僕のファン…なんじゃないだろうな。それとも教師としての責務?周りへの体裁?でなければ、自己満足?
宇佐見は黙って僕を見つめて、沈黙から小さなため息をこぼす。
「お主は、どうしていつもそうなのだ?のらりくらりと交わしたり、人を試すような質問をしたり。何を考えているのか、心内を見せやしない。まるで壁を作って、自分から関わりを拒んでいるようにさえ見える」
ご名答。関わりなんて望んでいない。いい加減で、適当でいい。誰かを理解しようとも、誰かに理解されたいとも思わない。そんな行為は、僕にとって何の意味も持たない。僕は関わりを持つことで感じる煩わしさより、一人で抱える孤独を選ぶ。その寂しさに耐えられる、そう覚悟をした。そう…そう決めたんだ。
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2009/10/1

3、面談―その壱ー  

不意に言い渡された個人面談。残された三人の中でも、僕の順番は最後だった。放課後はいつものように屋上へ行ってぼんやり空を眺めようとしたけれど、楓が止めた。
「私ら、あんたみたいに時間かからないし、行ってる暇ないんじゃない?」
「随分、余裕じゃん」
「まあね」
少し照れくさそうに顔をかく。照れるようなことはない。この時期に残されて面談されてる僕らに、ろくな理由はない。楓の場合、一番の問題は出席日数が足りているかどうか、ただそれだけ。おそろしく単純な問題。足りなければ補習漬けと追試で穴埋めをする。ただそれだけのこと。忍足に関しては、なぜあいつがここにいるのか、それ自体がわからない。成績も中の中、生活態度も普通と言えば普通。呼ばれる理由が見当たらない。キャラ的な気味悪さは宇佐見も感じてはいるみたいだけど。あいつが居残る理由って、案外その辺か?
「まあ、適当に時間潰しとくって」
「エロ本読んで?」
「そんなもん、常時携帯してるわけないだろ?」
「え、うそ?」
いや、それはない。そんなにリアクションは誤解を生むだけだ。誓って、僕はそんなキャラじゃない。
「ほら、呼ばれてるぞ」
ため息をついて、楓を追い払った。楓はそんな対応が不満なようで、履いていたスリッパを手に取りダッシュで駆け寄ると、僕の頭をはたいた。パーンと乾いた音が廊下に響いた。
「今のええ音やったね〜」
「おい!!」
「あんたが私を粗雑にあしらうからよ」
どんだけ偉いんだよ、こいつは。宇佐見の影響だろうか、この一年で随分と暴力的になったような気がする。楓が忍足と入れ替わって教室に入ると、廊下には僕と忍足の二人っきりになった。忍足は黙ってヘラヘラとしながら僕を眺めている。
「何だよ?」
「いや、別に」
「そんなにじっと見るなよ」
「そんなにじっと見てへんよ」
本当につかみどころがない。何がしたいんだ、こいつは。一回頭開いて脳みそ見てやろうかとも思ったりするけれど、知らない方がいいのかもしれない。得体の知れない物体を興味本位で触れたがるのは、無知極まりないただの愚行でしかないのだから。
去り際、「そうや」と思い出したように振り返る。
「君、目疲れへん?」
「突然、何で目の疲れなんだよ」
「ええ目薬持ってるんやけど、どう?」
「いらねえよ」
「授業中寝てるし?」
「放っとけよ」
茶化すだけ茶化して消えていった。本当に性格の悪いやつだ。

楓は予告どおり驚くほど早かった。そして、僕の番がやってきた。宇佐見は僕を最後にした理由を口にしなかったけど、それくらいはわかる。あいつの言葉を借りるなら――顔を見ればわかる。こうして黙ったまま面と向かっていても、何を考えているかくらいわかる。いとも容易く。
宇佐見は困った顔をして眉間を指で摘まんだ。
「何でため息なんてついてるか、わからぬであろう?」
「…」
「やはり、な」
「大変だろうな、ってのはわかるけど」
「これから、いろいろあるのでな」
いろいろあるのか。わかっちゃいたけど…。
「で、どうなんだ?」
何が…。
「どうなんでしょうね」
視線を外して適当に答える。ここらはまだ探り合いってことで、挨拶がわりの軽くジャブを一つ二つ。
「何のことだ?」
それをあんたが訊くか…。振ったのはあんただろう。乗ったのは僕だけど。
「この時期(高三の秋)に白紙なのはお前くらいのものだぞ」
進路のこと、か。僕は進学するのか、就職するのかすら決めていない。まったくもって決まっていない。正確には、決めていない。
「まあ、何とかなりますよ」
バカか、と呆れたように嘆かれた。そんなあからさまに…。まあ、気のない返事を毎度の如くしていれば、相手が宇佐見じゃなくても呆れる。しかもそれが続けば、いい加減怒る気も失せる。僕はそんな扱いを受ける生徒だった。それは自分でもわかっているし、わかっていてそのように振る舞っている。
「何とかなるって、もうすぐ(大学)入試なのだぞ。頭大丈夫か?」
それはどういう意味だ?学力が足りないと言うことか?学校でも居眠りが多いから、寝惚けてると思ってのことか?それとも露骨に思考能力が低いと指摘してるのか?
この場合、最後が正解だろう。失礼な奴だ。
「決まるときには決まるものだから、大丈夫っスよ」
「悠長なことを。あと三、四ヶ月で卒業するのだぞ」
宇佐見は相変わらずの調子で、背もたれに体を預けて見定めるように僕を眺めている。余裕だ。いや、余裕というより、慌てる素振りを見せないのは諦めているからこそ、か。
見定められている。
覗かれている。
覗いたところで、心の中が読めるわけでもないのだが。
「お主が何を考えているのか、さっぱりわからん」
本気で人の心を読もうとしてたのか…。アホだな…。
 思うが先か、宇佐見は僕の頭をぺしっと軽々しく叩いた。
「僕が何をしたっていうんだ!」
暴力反対。
「(何かわからないけど、たぶんいろいろなことが)気に入らんかった」
耳を疑う。そんな理由で人の頭を軽々しく叩いたのか。さっきから何回も軽々しく。教師がそんなんでいいのか。
とはいえ、わかっていたけど、こいつは普通じゃない。
「ジョークだ」
いつか、宇佐見はそう答えた。この一年、あんたは僕の頭を何度叩いたと思ってるんだ。笑えない、全然面白くもないジョークだ。
「何だ?何か言いたいことがあるならば、言ってみろ」
「いや、別に」
あっても言えるわけないだろ。得意の読心術で僕の心の中を読んでみろ。視線を外したまま、そんなことを思ったりする。
「話をしているときは目を合わせるものだぞ」
「美しすぎて直視できません」
「いつから入れ歯をはめている。言葉が浮ついているではないか」
 この年で入れ歯なんてはめるわけないだろ?自分の歯の上からどうやってはめるってんだ。
「浮ついた言葉ついでに、そろそろ真剣に自分のことを語る気にはならぬか」
やはり本当の狙いはそこか…。進路ももちろんあるだろうが、宇佐見の性格上、これだけ進路に拘るのもおかしいと思っていたんだ。普通なら「お前の好きにしたらよかろう」なんて言うくせに。現に、楓はそういう対応だから面談がおそろしく早かった。話すことは卒業に必要なことは何か、ということだけなのだから。進学しようと、就職しようと、何もしなくても、それは自分で決めることだから、それは尊重するし責任は自分で負うもの、というのが宇佐見の考え。何せよ、生きるのは自分自身なのだから、そのときにできるベストな選択を自分でするべきだと言う。ただ、僕に限っては選択云々の前に、人としての関わりを望まれているような気がする。
 だが、あいにく僕は期待に副えそうもない。これまでもそうだったように、これからもそうだ。誰が僕をどう思っても、何を求めてもかまわない。拒みはしない。けれども受け入れはしないし、その努力はしない。そういうのは勘弁。誰かの感情や思考で、汚されたりはしない。聞きたくない声を聞かないように耳を塞いで、見たくないものを見ないようにして目をつむる。そうして、僕は僕を守っている。自分という人間の純度を保とうとしている。そんなことは決して誰も知りはしないけれど。
「相変わらず、ふらふらとしているな」
ふらふら、そんな風に僕は表現されるのか。それが宇佐見から見た僕の印象か。言葉がどれほど確かなのかはわからないけれど、案外当たっているかもしれない。「決断することをしない」この行為に意志を伴っているとはいえ、答えを出せていないのは事実なのだから
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2009/9/22

2、始まりのはじまり その弐  

正確に言えば、学ランのカラーに手をかけられ、後ろに引っ張り戻された、だ。もちろん、こんなことをするのは一人しかいない。
「痛いなーっ。何!」
「どこへ行くつもりだ?お主」
宇佐見だ。座り込んで見上げる僕に、腕組みをしてそれを見下ろす宇佐見の図。いつかの再現だ。突然の不遇に惚けたように「は?」と気の抜けたように聞き返すと(決して意識的に惚けた訳ではない)、宇佐見は僕の耳からウォークマンのイヤホンを乱暴に引き抜いた。
「これか?これのせいか?これでしっかり聞こえるであろう」
こんなに手荒い仕打ちを受ける理由を探る。一年間、僕だけがこんな仕打ちを受けている。話はろくに聞かず外ばかり見ていること、居眠りが多いこと。言葉遣いが丁寧ではないこと。僕の生活態度についてだとすれば、いささか分が悪いか。いや、それよりも生理的に拒絶されているのか。もしかして、昨日読んだエロ本みたいに、好きという感情の裏返しか…。考え始めたらとんでもない方向へ話が膨らんでいくのでやめた。
ズボンの汚れを払い立ち上がった。それにしても本当に可愛らしさとか女性らしさってやつとは縁遠い人だ。偏見かもしれないけれど、女性だともう少しやわらかい物腰だったり、温かな優しさがあってもいいような気がする。それがこの人には感じない。おそろしく現実的で即物的、直線的で威圧的。自分の思考・感情が揺らぐことのない絶対的な存在。どうすればこんな人間になれるのか。時々、ふと思う。この人は生まれてからずっとこんな風なんだろうか?そうでないのなら、いつからこんな風になってしまったのだろうか?こんなんじゃとてもじゃないが、結婚なんて無理だろう。相手がいるなんて話は聞いたことがない。従属的でマゾヒストであるならばもってこいだけれど。それよりも今まで一回もやったことがないんじゃないだろうか。大した体でもないくせに、身持ちが硬いとか。とか、なんとか考えていると少し同情するけれど、その同情すら払い飛ばされそうだ。思い返す。僕が相手にしているのは紛れもなく凶悪な教師、宇佐見だ。それと同時に脳裏を過ぎる。この人のこと、何も知らない。
「何故にまじまじと人の顔を見る?私の顔に何かついているか?」
「いや、何も」
「そんなにじっくりと眺めるようなエロい体躯は持ち合わせておらぬぞ。それとも心の中を覗こうとでもしたのか?」
「…」
「あり得ないって顔してるな」
そんな顔はしていない。
「…」
「図星か。本当にお主という人間は薄っぺらい。そんなもの、顔を見ればわかる」
顔を見ればわかる、か。全然当たりもしないくせに、言ってくれるよ。
僕が思わず口元が緩ませていると、宇佐見はいぶかしげに目を細めた。不敵な笑みの理由を探っている、てところか。まあ、凝視したところで、その理由にたどりつくことなんてできはしないのだろうけど。
「えらく余裕だな」
「別にそんなことは…。ただ…」
「ただ?」
ただ、面白くもないジョークに興ざめしただけ。
顔を見ればわかる…。確かに宇佐見を見てれば、この人ならできるかも…そう思えなくもない。まっすぐに見つめて、相手を見透かすような視線や、上から見下ろされるような威圧感から映し出されるのは、皆の隠しても隠しきれない不安や諦めと言ったところ、か。
まあ、実際にこの人が「読心術」なんてできるわけないんだけど。ただ、わかりやすく浮かび上がった表情を拾い上げたに過ぎないだけ。まともに受ける話でもない。本当に、下らないジョークなんだから。
「ちょっと、どいてくれる」
人だかりが割れて、女子が邪魔くさそうにこちらへと向かってくる。隣の席の不良少女、御所内楓(ごしょうち かえで)。早退、遅刻、無断欠席、途中で消えていなくなるなんてのはお手のもの。いないときも多いせいか、いると周りが少し緊張する。決して人付き合いが良い方ではないし、集団行動ができないし。物言いも素っ気ないし。胸はデカいけど。
ペシッと楓が僕の頭をはたいた。
「何をするんだ、コラ!」
「あんたから、嫌な気を感じた」
「ドラゴンボールの見過ぎだろ!」
「どこ見て話してんの!」
言われて気付けば、視線は楓の歩くと揺れる膨らみに注がれていた。これは立派な企みだ。楓は少し小さめのブラで締め付けてその大きさを隠しているようだけれど、そんなの隠せたうちに入らないぞ。現に、僕の目はごまかせない。いや、そうじゃなくて…。一つ咳払い。
「咳払いしたって、あんたがムッツリだってのは変わらないのだけど」
「頼むから、人前であっさりムッツリとか言うのはよしてくれ!」
「じゃあ、変態」
「言い換えてるだけじゃないか。むしろ、余計に酷くなってるし」
大きく、たわわな企みに揺れる僕は、宇佐見、あなたの言う通り薄っぺらな人間だ。
「何や君は、いつも楽しそうやね」
ヘラヘラと笑いながら関西弁で話す糸目の男子が、楓の後ろに立っていた。忍足忍(おしたり しのぶ)。まるで存在感がない。いつからそこにいたのか。あまり他人のことを悪く言うのはよくないけれど、つかみどころのない、どこか気味の悪いやつ。こいつには心を許す気になれない。言葉から表情や仕草には、確固たる悪意が漂っているような気がする。まるで蛇が舌を出して獲物を眺めているように。けれどもクラスメイトは、僕ほど悪い印象をもっているわけではないようだ。関西弁の印象のせいだろうか、初対面でも随分と知っているかのように親しげに話しかけてくる。いつの間にか距離を縮め、知らず知らずのうちに相手のペースに巻き込まれている。
「何の話やったん?」
「秋月に目で犯された」
酷っ!被害者はこっちだ。何せこちらの意図と関係なく、目を奪われたんだから。
「目で?うわ〜、君、相変わらずエロいな」
お前に言われたくない。
「ムッツリやん」
蒸し返すな。繰り返すけど、僕はムッツリじゃない。楓の胸を見たって、何カップで、どんなふうかなんて具体的に想像したりはしない。ましてや、それを触りたい、おもいっきり揉みしだいてみたいなんて思ったりはしない。
「やっぱりドエロでしょ?」
「いや、スーパーウルトラ級やね。見くびったら、彼に失礼やよ。こんなこと今更言わなくても、みんな知ってはるけどね」
 何?みんな僕をそんな目で見ているのか?嘘だろ?周囲を見渡すと、誰も彼もがそんな眼差しで見ているように見えた。これは被害妄想だ。楓や忍足にひどく言われたものだから、きっと傷ついているだけで、僕はムッツリでも、ドエロでもスーパーウルトラ級のエロでもない。でも、待てよ。黙って頭の中でエロい想像を膨らませているのがムッツリならば、それはまるっきり僕じゃないか。疑う余地もなく、百パーセントの確立で僕はムッツリだ。そうか、そうなのか。僕はムッツリなのか…。いや、何となく気付いちゃいたさ。そうなんじゃないか、て。でも、人から言われると、けっこう傷つく。
 などと、頭を抱えながら身を捩じらせてもだえていると、宇佐見が話を遮るように大きく咳払いをする。僕もそれで正気に戻り、周囲の視線の冷たさに今更ながら自嘲と言う言葉を頭に思い浮かべる。これじゃ、ひどく言われるはずだ。
「三バカが、ようやく揃ったか…」
宇佐見は僕ら三人から疲労感たっぷりな様子で目を逸らした。そんなにあからさまにされると気分が悪い。というか、こいつらと一緒にされるのが一番嫌だ。
「先生やめてよ、こんな奴と一緒にするの」
こいつ、僕が敢えて口に出さなかったのに、ためらいもなく平気で言いやがった。
「僕も変態と思われるのは嫌やわ」
忍足、お前までも…。って言うか、お前には言われたくないぞ。それに、僕は変態じゃない。変態は、むしろお前だよ。年がら年中ヘラヘラして。
「お前たちに言われたくないぞ!」
「私から見れば、お主ら三人とも同じようなものだ」
改まって言うことでもないが、と宇佐見は付け加える。周りを見ると、誰しも宇佐見と同じような目で僕らを見ていた。
「まあ、それでもお主がダントツでトップだ」
宇佐見は日誌で僕の頭を小突いた。叩かれるのも腹立つけど、これはこれでかなり屈辱的だ。一方で、楓や忍足はこの対応に満足気だ。お前たちだってトップじゃないだけで、僕に続いてるんだぞ。それでも何のトップだ?しかも、ダントツで。
「ほら、用のない者は早くお帰り」
宇佐見の号令で人だかりが解けていく。鞄を拾って視線に気付く。宇佐見は僕を見ている。いや、後ろの二人のことも見ている。
「だから、どこへ行く?お主らは居残りだと先刻伝えたであろう」
先刻?いつだ?
「何かあんの?」
「さあ、何も聞いてへんし、さっぱりやわ」
「ちょっと、あんたといると、関西弁がうつるんだけど」
「ええやん。これでバイリンガルやね」
「何で地方の方言ごときが違う国の言葉と同等に扱われてんのよ」
「アホなこと言うとったらあかんよ。他国語より関西弁の方が上に決まってるやん。そもそも関西弁は漫才やるのに、掛け合いがしやすいように生み出された言葉やで。そりゃ、話しやすい、聞きやすい。聞いてる人も勝手に話してしまうのも無理ないんやて」
「ありえへん。あ…」
「ほらね」
宇佐見の拳に力が入っていくように見えるのは気のせいだろうか?
「で、今日は何?ちゃんと聞いといてよ」
「あららら、僕のせいなん?」
 お前ら、自分たちが地雷踏みまくってんの、わかってるのか?それとも、宇佐見を二人でここぞとばかりにからかっている…とか。この二人が絡むと、ややこしくなるから厄介だ。
「プリントを配ってるときだ。お主らが外を見たり、紙が無駄だとぼやいたり、配られたプリントで紙飛行機作ってるときだ。」
うわっ、ぜんぶお見通しだ。
「お主らは面談が終わっていないだろ?」
面談か…。
「先生、この前やったじゃん」
「忘れてはるんとちゃう?」
「覚えておるわ!!お主ら、あのとき何と言った?将来の希望は、玉の輿に闇の組織のエージェントだと?何だ、エージェントって。どこの組織だ?そんなので私が納得するわけないだろ」
宇佐見は僕の頭をペシッと叩いた。
「僕が何をした!」
「いや、そこにあったのでな。つい…」
つい…て、それって八つ当たりだろ。しかも、僕は何の関係もないじゃないか。僕は主人公であるはずなのに、こんな扱いだなんて…。何かが根本的に間違ってる。

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2009/9/19

1、始まりのはじまり  

誰も心の奥底のことを話したりしない。誰かに話したりするものじゃない。誰かに話せるようなものじゃない。もし誰かに打ち明けられたら、それはそれで楽になれるのかもしれない。そして、意固地なって頑なに隠し続けてきたことを無駄に思うかもしれない。けれども、打ち明けた結果が必ずしも良いものだとは限らない。受け入れられず軽蔑され、つらい思いをするかもしれない。誤解されたり、悪いイメージをもたれたり、そうして傷つくことが怖い。だから、例え偶然に何かの拍子に思いが喉元までこみ上げてきたとしても、外に出す術はありはしない。厳密に言えば、術はあってもそれを選択はしない。それは密かな秘めごとだから、静まり元の場所に戻ることを願い、ただそれを待つだけ。それなのに、そんな気持ちを、言葉にできないもどかしさをわかって欲しいと思う。何も言わなくてもそっと気付いて欲しい。そっと気付いて、そっとわかって、そっと見つめて、そっと微笑んで欲しい。それとなく何となく、遠くもなく近くもなく微妙な距離感で。そんなの独りよがりだって知ってる。だけど、求めずにはいられない。僕の世界、彼女の世界、僕たちを取り巻く世界。すべては異なり、すべては1つ。異なりは異なり、すべては統べる。空を見上げていると、そう思えてしまう。


 秋が足を速めた頃、誰もが自分の未来を決めるべくその日に向けて準備を整えていた。楽しみに興じる時間を減らし、睡眠を削り、多くの犠牲を必要とする。耐えるだけ耐えた犠牲が果たして糧となりえるのかは別として、刻一刻と進む時間を惜しむようにただひたすらにそれだけで頭の中をいっぱいにしていく。手に入れようとしているものがどんなものか、知りもしないのに。その先に求めるものがあると信じて、それを疑わない。疑う余地はない。盲目的で排他的、そういう空気が教室を満たしていた高校3年生の秋。
「全部渡ったか」
授業後のホームルーム、連絡のプリントが前から次々と送られてくる。
こんなにたくさん、意味ないのに。
隣の不良少女がぼやく。
こっちを向いてぼやくな。
迷惑そうに見返すが、どこかあてずっぽうな方を見ていた。
あのなぁ…。
「いいか、今伝えた通りだ。わからない奴おるか?」
わからない者などいない。それがこの言葉の解釈。いるとすれば、どうあっても理解をしなければならない。低く通る声音が沈黙を要求する。
担任の宇佐見鳴海(うさみ なるみ)。女性にしては身長も高い。黒く長い髪は束ねてきれいに整えている。服装もシンプルだが、センスは決して悪くない。というわけで、外見は贔屓目に見ても申し分はない。それだけに痛い。痛すぎる。竹を割ったような性格で、あっさりばっさりしている。まあ、潔かったりもするけれど。しかし、何よりも怖い、怖すぎるのだ。対峙したときの威圧感は絶句もの。彼女の前で宿題を忘れたなんて口が裂けても言えない。だからどの教科よりも「国語が最優先」というのは暗黙の了解になっている。例え次の時間の宿題を忘れても、うさぎちゃんの怒りに触れるよりかマシなのである。それを知っているから、他の教師たちも何も言わない。正確には「言えない」のだ。彼女はそういう存在らしい。「うさぎちゃん」というのは彼女のニックネームで、私たちは密かにそう呼んでいる。ちなみに彼女の前で堂々と「うさぎちゃん」と呼べば、後悔を百回しても足りないくらいの気まずさとつらさを味わうことになる。
宇佐見はわざとらしく大きく咳払いをする。声は全員に向けられているけれど、視線は明らかにこちらにしか注がれていない。お前が余計なこと言うからだ。隣の不良少女は、まったくもって他人事とばかりに知らん振り。
くそっ…。
今年度初日、僕らはこの学校に入学以来、初めて宇佐見を見た。宇佐見自身はこの学校に赴任してそれなりの年月が経つというのだが、それまで一度目にお目にかかったことはなかった。正直言うと、今年が最初で最後というのはありがたかった。これがまた来年も続くとなると気が重い。そんなことになったら、きっと何人かは登校拒否になってしまう。いや、本当に真剣な話で。
今年度初日、春休み気分の抜けきらない男子生徒がいて、そいつはとっても酷い目にあった。宇佐見が話をする最中、隣の席の生徒と話をしていた。正確には、ちょっかいを出されていた。今の僕みたいに。今から振り返れば、それはありえないことだった。「真夏の雪もない山に、完全防寒装備でサーフボードを持って登るくらいに」「警察署に全裸で走り込むくらいに」と言えば、どのくらいあり得ないか伝わるだろうか?
宇佐見は話を止めて、「ここに来い」と自分の前を指差した。呼ばれたそいつは面倒臭そうに歩きながら指差された場所へと立つ。その瞬間、あろうことか、宇佐見は手元にあった日誌でそいつを横からおもいっきし引っ叩いた。あり得ない…。予告もなく、しかもひっぱたくなんて。怪我でもしたら、どうするんだ。職員会議ものだろ?。
縦に長いひょろっとした体が、ありえないほど横に飛ばされた。皆がぽっかりと口を開けて見ている。そりゃそうだ。飛ばされた本人も含め、誰がこんなことになると思っただろう。しかも、結構飛んだ。高校生男子ともなればそれなりの体重があるにもかかわらず、学級日誌一冊でいとも簡単に。なんて腕力だ。それよりも、いくら日誌が硬いからといっても、衝撃で折れ曲がっている。これから一年間使うんだぞ。どう言い訳するつもりなんだ。きっと、素直に平気で「これで生徒を叩いたら折れ曲がった」と言ってしまうに違いない。それを聞いた人間はどう思う?言葉を失って何も言えないに決まってる。もし、そこまで計算してるなら、この担任はとんでもなく末恐ろしい人間だ。実際にはそこまで計算はしていなかったけれど、経験上何とかなるということは知っていた。
話を戻して、何が起きたかわからずに倒れこむそいつを、宇佐見は見下ろして言った。
「今は私が話をしている最中であろう。今、何を語る必要があると言うのだ?人が話しているときは、前を向いて黙って聞くものだと教えられなかったか?それと、呼ばれたら全速で来い。ルーラを使え。」
バカか、こいつは…。瞬間移動の呪文なんか使えるわけないだろ。しかも、ドラクエ知らない奴には通じないネタだぞ。
瞬間のつっこみも、すぐに現実に引き戻された。恐ろしいくらい冷たくまっすぐに上から目線で見下している。そこに優しさとか温かさといったものはなかった。そういうものは望んではいけなかった。何でこんなに怖いんだ。さしずめ彼女が蛇で、彼が蟻だった。蛙じゃなくて蟻だ。蟻なんて、ありえない。それ以上に洒落にもならない。
そいつが宇佐見の態度にムッとしていたのはわかったが、宇佐見の方は答えがないと見るや襟元を掴み締め上げた。
「私はわかったのかと訊いているのだよ」
わかった、と掠れ声で返事を返すが、宇佐見は「わかりました、だろ?」とさらに締め上げた。すぐさま慌てて「わかりました。わかりました」と宇佐見の手をタップした。プロレスでギブアップのときに叩いて知らせるアレである。ここは軍隊か?あなたは鬼の軍曹か?宇佐見は黙って手を放すと、皆にとにっこり笑顔を見せた。
怖い…。
この笑顔の意味するところは何なのだろう。固まってしまった皆を見ると、「また、やってしまった」とばかりに大きくため息をついて、糸の切れた操り人形の如く床に崩れたそいつを睨んだ。
「すまないな、驚かせてしまって。突然のことで驚いただろうが、私のクラスでは時々ある話なのだよ。でも、そんなに心配しなくてもいいのだぞ。普通にしていれば悪いようにはせぬ。それに、これでも加減している。なのに、容赦のないくらいに厳しく映るというのだ。それはそれで少し心外なのだ。私だってこれでも女性であるからな。まあ、今年一年頼むぞ」
頼むぞとは他力本願な…。しかも、あなたのクラスでは時々こういうことがあるのですか。そんなの聞いたことないし、情報になかったぞ。確かに担任があなただとわかったとき、周囲がざわめいていたけれど。あれはそういう意味だったのか。
普通じゃない、直感がそう訴える。
ちなみに、皆の前で晒し者になった愚かな奴とは、他でもない僕である。一つだけ訂正するなら、春休み気分とは関係なく、僕は常に面倒臭そうに生きている。何時なんどきであろうと。
おかげさまで、それ以来僕はクラスで一目おかれている。唯一、宇佐見にたてつく怖いもの知らずとして。

終礼が終わると重圧からの開放でクラスに大きなため息が漏れる。反動とばかりに、教室や廊下は笑い声で賑わう。近くの奴らに手を上げ挨拶をして、ほとんど中身の入っていない鞄をぶら下げながら、席を離れ出入り口に向かう。すると背後で誰か呼ばれた気がした。ウォークマンで、微かに声が聞き取れる程度だった。ちらっと目をやって確かめる。何もなさそうなのでまた歩き始めた。すると、突然すごい勢いで後ろへ引っ張り戻された。
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