2010/2/1  1:19

白石明彦(『朝日新聞』編集委員)「アナーキスト詩人 秋山清著作集 完結」  反響集

 抵抗詩「白い花」で知られるアナーキスト詩人秋山清(1904〜88)の業績をまとめた『秋山清著作集』全12巻(ぱる出版)が完結した。権力と権威を認めずに生きた自由人の魅力に満ちた著作集だ。
 一貫してアナーキズム系の文学運動に携わり、戦前は小野十三郎と詩誌「弾道」を、戦後は金子光晴らと「コスモス」を創刊した。著作集には乃木稀典らを採り上げた詩人論集『近代の漂泊』、「政治と文学」論争にかかわった『文学の自己批判』、夢二論『竹久夢二』などの主著を収める。
 戦時中の「白い花」を「当時の日本における唯一の抵抗詩」と評したのは吉本隆明氏。妻子や故郷をおもいながらアッツ島で戦死した兵士を描き、戦争の非人間性を浮き彫りにした。
 文学者を統制した日本文学報告会にも加わらなかった秋山だから、高村光太郎ら詩人の戦争責任を追及する筆は鋭い。
 戦時中、「あなたの戦争詩が気に入らぬ」と光太郎を批判し、「発表しているばかりが私の詩ではない、私の詩は別にかきつつある」という意味の返信に絶望する。
 「戦中は戦争詩、戦後は民主主義詩人であり得た日本の詩人の転向の揚げ底的な浅薄さ」を論じた文章は、40年後の今も重い。
 編集委員は秋山雁太郎、奥沢邦成、久保隆、暮尾淳、黒川洋、高野慎三の6氏。本体価格は各巻3200〜6500円、別巻のみ8000円。

(『朝日新聞』07.5.15付)

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2010/2/1  1:18

暮尾 淳「詩人アナキスト秋山清 キナ臭い現代に復活」  反響集

 札幌の高校を卒業して東京の私立大学に入ったわたしが、初めて出会った大人の詩人は秋山清だった。1960年早春、二十歳になろうとしていたばかりの物知らずのわたしを、初対面にもかかわらず対等に遇してくれ、優しい笑顔を絶やさない三十五も歳上のこの詩人に、わたしは一目で魅せられてしまい、以後親炙するところとなり、それは1988年、八十四歳での死まで続いた。いや親炙という意味合いでいうならば、近づき親しんで感化を受けるということは、今でも続いている。「そっとこいねがうものは、煤ぼけた明治のこの方の自由と平等」と詩に書いた秋山は、その願いを手放さず、詩人としては数多くの論稿や著作を残してくれたからである。それらを読むと、わたしいつでも秋山に会うことができるし、その度に今を考え直す何かを見いだす。今回著作集編集委員の一人に加えてもらったことを、わたしは泉下の詩人に深く感謝している。
 秋山清は1904年(明治37年)、現在は北九州市に属する周防灘を臨む漁村に生まれ、漁民部落の相互扶助の生活のなかで育ち、上京して働きながら日本大学予科に入学(中退)、自由の少ない時代に自由を求める反権力権威の思想としてアナキズムを自らに課し、戦前は局清や高山慶太郎などの名でプロレタリア詩や批評を書いた。小野十三郎と二人で編集した詩誌「弾道」では、更科源蔵らの「北緯五十度」を「農本主義的な人道主義」であるとして激しく論争を挑んだりしたが=1930年(昭和5年)=、秋山清を他の詩人から抜きんでさせたものは、あの太平洋戦争下を辛くもくぐりぬけた詩人としての矜持であった。無政府共産党事件で検束された思想的「前歴」を持つ秋山のところには、週一、二回の憲兵あるいは特高の来訪があったという。近代総力戦争における国家権力の下で民衆が生きるしかなかった当時を振り返り、「孤立のかなしみ」=初出1959年=に秋山は次のように書いた。
 「私は深い洞察と先見の明があって、そのような態度を(日本文学報国会に入らず賛戦詩を書かない―暮尾注)とったのではなかった。世界の情勢もわからず、日本の頽勢もじっさいのことを知っていたのではない。無惨に敗北をするということもまだ確実には知っていない。ただ、戦争のために民衆の生活が不自由になり、貧しくなり戦争に皆駆り出されることに、ついてゆけないという自分の奥底の思いを否定しなかった。それは日本の社会主義の伝統を、忘れなかったからである。」
 文学を以って国に報いるという日本文学報国会は、内閣情報局の指導監督下で文学者を統制した団体で、詩人のほとんどは会員となった。あるいはならざるを得なかった。秋山は勧誘されても、何とかかんとか言い逃れて加入しなかった。「孤立のかなしみ」とは、高村光太郎はもちろん多くの知人友人が、文学報国会などの活動にやがて積極的に加わり、賛戦詩を書くことで、自分との距離がしだいに離れて行ったことをいう。しかしこの「孤立のかなしみ」に耐えることにより、秋山は多数から離れ、自我の真底からの崩壊を防ぐために、戦争下の一庶民として揺れながらも不同調のおもいをひっそりと詩に込め、業界紙の片隅などに載せることができた。敗戦後にそれらの詩篇を読んだ吉本隆明は、「ああこんな嘘のない真っ当な抵抗詩を戦争期に書き記していた詩人がいたんだ」と高く評価したが、小さな詩集「白い花」としてまとめられたのは、1966年のことであった。
 戦後の秋山は戦争下のこの苦い体験を噛み締めながら「人民詩精神」を掲げて金子光晴らと「コスモス」を創刊し、初期の新日本文学会にも力を注ぎ、一貫してアナキズムの思想的立場から文学に携わり、人間の自由とその社会の在り方を追及した。だがその死後は知る人ぞ知るというような存在だった。「日本の反逆思想」「ニヒルとテロル」「竹久夢二」「近代の漂泊」「文学の自己批判」「アナキズム文学史」などの著作は絶版のままだったが、今回全十一巻と別巻一(資料・研究篇)の「秋山清著作集」(ぱる出版)が完結し、その全貌を知ることができるようになった。何やらキナ臭い管理社会の現代に、詩人アナキスト秋山清は蘇ったのである。

(『北海道新聞』07.7.17付夕刊)
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2010/2/1  1:16

久保 隆「『秋山清著作集』(全11巻・別巻1)完結によせて」  反響集

 後に吉本隆明が“詩的抵抗の最高の達成”と評した、戦時下の詩篇「白い花」をもつアナキスト詩人秋山清(1904〜88年)は、長らくその著作の多くが品切れ絶版状態にあった。わたしたちは、主要著作を中心にした精選著作集を企画し、ほぼ一年間で全十二冊が、この三月をもって刊行、完結した。いま、いくらかの感慨を抱きながら、そのことを振り返ってみたいと思う。
 戦前から、詩人としてアナキズム運動に深く関わっていた秋山は、戦後、アナキストの共同的な場として結成された日本アナキスト連盟に参加、解散時まで精力的な活動を続けている。一方、金子光晴らとともに同人詩誌『コスモス』を創刊、終刊号の101号は、「秋山清追悼特集」となった。また、戦後すぐに創刊した『新日本文学』に参加。党派的論理を背景にした文学活動に断固として否をとなえ、その間の総括として執筆した『文学の自己批判』は、スターリン主義的な表現統制に不満を抱いていた人たちの多くに共感を与えた。たぶん、誤解のないようにいえば、ここまでのイメージが、秋山清への主たる貌としてみることができるかもしれない。しかし、わたし(たち)は、いくらか違う相貌をもって、秋山清と交錯していた。既に、わたし(たち)の世代は、『新日本文学』の活動になんの思い入れもなかったし、出版した時点での衝撃性は認めるとしても、『文学の自己批判』に書かれていることは、当然のことであった。そのことで啓発されるということはなかったのだ。むしろ、六〇年代末の一連の反体制運動の渦中にあっては、『ニヒルとテロル』であり、『日本の反逆思想』であり、『竹久夢二』であった。戦前の抵抗運動のなかで、敗走した一群の若者達の叛逆的心情を、大きな視線を持って照射した二冊の著書は、いろいろな意味で、わたし(たち)の当時の感性を激しく揺さぶるものであった。そして、一方に抒情画家の評伝があることに、秋山清の思想の深さをみることができたのである。
 今回の、著作集の主旨としては、定本的な全詩集を編むことは当然としても、これらの著作を、現在のような情況の只中に提示したいということであった。
 わたしたちは、全十二冊に、秋山の仕事のすべてを収斂させたなどとは、思ってはいない。重要であると思えるもので、収録できなかったものは、数多くある。ともあれ、完結刊行した後の、わたしたちの仕事は、まだまだ山積してある。なによりも、まず、秋山の仕事を現在の場所から、もう一度、評価し直すことである。これはいくらでも声高に述べておきたいが、秋山の仕事は、過去の評価の俎上にだけあるものではない。現在へも連続して繋がって読まれるべきものであることを、いま、さらに強く思い至っている。現在、九条改憲とともに〈国家〉という亡霊は、いよいよもって強圧的になりつつある。三十数年前、秋山は次の様に述べていた。
 「軍は好ましからざる力、不可欠なもの、止むを得ない絶対の防備、という美辞麗句が氾濫しはじめている。そいつに国家存続のため、日本民衆のため、という掛け声が伴ないつつある。(略)そこに『国家』というものの、奇妙にふにゃふにゃとしてとらえどころもないくせに、近づくにしたがって強圧的な牽引力で民衆を吸収し拡大する(略)わからぬままにそれに組み込まれ、しらずしらずにその中の一員として発言している(略)私はこれが国家の呪縛というものではないか、と考えようとあせりつづけている。」(『著作集第4巻 反逆の信條』)
 秋山の文章が、秀でているのは、断定的な論旨を展開しないところにある。このように、ふと、読み手が引きずられるようにして、ひとつの瞠目すべき地平へと誘われていくのだ。だからこそ、いまこれを機に、多くの読者との出会いを渇望したい。

(『図書新聞』07.4.14号)
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